聞く

森と人を紡ぐ時間

グリーンウッドワーカー・
川端マリコさん①

2023223

 川端マリコさんは、新潟県小千谷市の出身で、現在、岐阜県を拠点にグリーンウッドワーカーとして、ウッドスプーン等を制作し、ご活躍されています。今回は、岐阜県本巣市の「文殊の森」にお邪魔し、お話を聞いてきました。

 

本日は、貴重な体験をさせていただきました。ありがとうございました。

川端 こちらこそ、寒い中ありがとうございました。

 

川端さんは、子供の頃から自然に触れる機会が多かったと伺っています。

川端 小千谷市片貝町で育ったのですが、里山に近い、程よく人が入る林の中に家がありました。遊び場所は、家の周辺でしたし、林の中にもよく入っていました。

 

その頃から、すでに自然志向なライフスタイルを体感されている感じですね。

川端 林の中にはクヌギとかヤマザクラが多かったですね。山栗も多くて、学校の帰りに拾って、生の実をカリカリ食べていました。家族でも一緒に山栗拾いをして、燕三条製の道具を使って剥き、茹でて冷凍保存し、好きな時に栗ご飯を作ってもらって食べたりしていました。

 

何か豊かな生活ですね。

川端 クワの実やアケビも美味しいですよ。今でも時々、スダシイやマテバシイなどのドングリを見つけると食べたりしています(笑)。

 

もう完全な自然の人ですね(笑)。 まわりもそんな子がいっぱいいたのですか?

川端 いなかったですね。私だけが、遠くから小学校に通っていました。歩いて通学する日は、一時間位かけて通っていました。そんな環境に住んでいたので、子供ながらに、自然の生態系バランスとかが年々変化する様を見ることができました。

 

それはどういった事象なのですか?

川端 毎年、何かが大発生するんです。ミミズだったり、カエルや爬虫類、バッタや大きな蛾とか。山の近くだから体験できたことと思うのですが、とても不思議に思っていました。

 

そうなんですね。本当に子供の頃から、自然の中で多くの体験をされているのですね。

川端 そうですね。大人になり、グリーンウッドワークをきっかけに「文殊の森里山クラブ」に所属し、森林整備に関わっていますが、久しぶりに見た森は、感じたことのない不思議な自然でした。

 

どんな感覚なのですか?

川端 林は放置され、薄暗く、木が息をしていない感覚を感じました。近年、よく問題として取り上げられますが、木や枝は適度に伐採しないと、林の中に光が差し込まず、林内の植物にとって悪い環境になり、山全体の豊かさは失われることになります。

 

木だけが山を構成している訳では無いということですね。

川端 日本の林業を取り巻く環境が変わったという一因もありますし、伐採や枝打ちのできる方も高齢で少なくなっています。「文殊の森里山クラブ」も今年で24年を迎える市民団体ですが、例にもれず高齢化が進んでいました。ただ、この2~3年で若い世代の参加者も徐々に増えてきて、嬉しく思っています。

 

近年の里山には野生動物に関する課題も多いですね。

川端 昔は、森林と人の生活圏の間には、人によって常時管理されている雑木林等があり、そこが「野生動物との緩衝地帯」になっていましたが、人の生活圏が増える一方で、人が常時管理する森林が減っているため、人と野生動物の接点が近くなりすぎていて、民家の近くに出没したり、農作物に影響を与えたりしています。

岐阜県「文殊の森・里山クラブ」での活動・近年の里山は「放置林」や近くなった野生動物との接点等、課題が多い

里山の現状が理解できました。続いて「グリーンウッドワーク」について、お聞きしたいです。

川端 グリーンウッドワークは古典的な製法の木工で、新鮮で柔らかな「生木」を材料にして、機械を使わずに斧やナイフ等の手道具だけを使って「ものづくり」をします。制作するのは主に、スプーンや椅子などの日用品です。1970年代後半の欧米が発祥の地で、スウェーデンのバイキング(昔の海賊)由来の様々な削り技法が取り入れられています。

 

「生木」と「手仕事」がポイントなのですね?

川端 そうです。木に関しては森林で伐採された小径木はもちろんですが、剪定された街路樹の枝なども素材として使用します。それらは剪定後、コストとエネルギーを使い処分されています。それよりもエネルギーを使わず、手仕事で日用品に変えて有効利用しようということです。

 

そもそも、始めたきっかけは何だったのでしょうか?

川端 岐阜県美濃市で木工スプーン作りを体験できるイベントに参加したのがきっかけです。色々な経験プログラムがあり、私は「グリーンウッドワーク」以外のプログラムを希望したのですが、定員オーバーで。結局じゃんけんで負け、枠の空いていた「グリーンウッドワーク」になってしまいました(笑)。

 

(笑)。

川端 全然本意ではありませんでした(笑)。いきなり生まれて初めて斧を持つことになってしまい(笑)。 正直しんどかったです。 柔らかい朴の木を使って、半日の体験だったのですが、当日は工程の半分もできなくて、その後は筋肉痛にもなり大変でした(笑)。

 

それが、今では! ですね。

川端 家に帰ってから、残りの作業をしたのですが、四日後位に、生木から乾燥して形が変わっていたのです。それを見て凄い! と思いました。「グリーンウッドワーク」が面白いと思った初めての体験です。それまでも、製材された乾燥木を使った木工は経験していたのですが、この生木ならではの、時間の経過による美しい変化が「グリーンウッドワーク」の醍醐味だと思っています。

丸太割りから始まる木との対話・川端さんによる「森と人を紡ぐ時間」

制作の工程(左下)

ジャンルが違いますが、現代の工業製品においては、大量に同じ物を作りだすことが励行されると共に、経年することで起こる変化は許容されない風潮が見受けられます。

川端 欧米のウッドスプーンは一般に言われている「狂い」を活かした形になっています。これは乾燥木×機械加工では容易に再現できないことです。また、仕上げには「やすりかけ」も行いません。手仕事の跡が残る制作法だからこそ、完成後「観る楽しみ」があります。それも「グリーンウッドワーク」の魅力だと思います。

 

奥が深いですね。

川端 「グリーンウッドワーク」は、素材と対話する双方向の「ものづくり」と感じています。一方的に木を読むのでは無く、木と対話しなければいけません。丸太を割ることから始まりますが、そこから木の本質が現れてきます。ですので、私は木を割り木の内部の状態を見てから制作の方向付けや作業を行っています。

 

木を加工する技術もさることながら、研ぎ澄まされた五感や素材に向かう心持ちが大切なのですね。

川端 愛情を掛けて植物を育てると綺麗な花が咲くのと同じで、木に敬意を持ち、対話しながらナイフで丁寧に気持ちを込めて制作すると、綺麗なカーブのスプーンができることに気づきました。道元禅師の書『典座教訓(てんぞきょうくん)』に通ずるものがあり、ずっと考えていたことの解が示された思いです。

 

※『典座教訓』――曹洞宗・永平寺の開祖、道元による禅における「食」を説いた書。食材に対しての敬意、道具を愛し大切に扱う心、食事を提供する相手への心配りなどを説いている。

 

禅ですか! そういわれると川端さんが必要最低限の作業スペースで手道具だけで、木と対話し作業されている姿は禅に通ずるような気がしてきました。

川端 作業はどこでもできますし、手仕事の道具だけ持っていれば海外でも制作できます。素材も現地調達できますしね。その日、その時で、自分にとって居心地良い場所で気分よく作業することが良い作品に繋がると思っています。作業スペースもご覧の通り、自分が腰掛ける場所と作業台が置ける場所があれば十分です。自然の中で、自分も自然の一部であるということを感じながら今後も活動していきたいです。常に自然に触れて五感の感度を高めておくことはとても大切なことだと思っています。

 

本日は、ありがとうございました。最後に今後の展望をお聞きいたします。

川端 木地師は森に住み、木を使い、また数十年後に使う木を植えて、という営みを代々続けていました。森林整備の話に戻りますが、現在、森に入ると、伐採できない木や重機が入れずに搬出できない伐採期を迎えた木が沢山あります。木を伐る技術を持った人とグリーンウッドワーカーが道具を持って森に入るとそのような木も活用できると考えています。色々、思考していきたいです。

作品①「コシアブラ」製スウェーデン型スプーン・着色されているものは「拭き漆仕上げ」が施されている

作品②ぺーパーコードを編んだ座面と脚部に柿の木を使ったチェア

作品③手織りクロスの綿糸は栗のチップで二色に染められている

作品④白樺の皮で作ったシース

丸太の作業台、道具箱も川端さんのハンドメイドによるもの

取材を終えて

 川端さんとは、友人の友人みたいな繋がりで知り合った。その友人も森林インストラクターで、川端さんと共に、森林整備活動を行っている。里山の現状、グリーンウッドワークの思想や概念。とても興味深く、勉強になった。タイトルにも書いたが、川端さんの活動はまさしく「森と人を紡ぐ時間」なのだと思う。そして純粋な手仕事で丸太から一本のスプーンを創り出す光景を初めて目の当たりにして、素直に驚いた。作品ギャラリーでもご紹介しましたが、とにかく川端さんは、なんでも自分で作っちゃう人です。

 「川端さんに聞く」は、もうちょっと続きがあります。ワークショップのことなど、また改めてお届けします。

PROFILE

川端マリコさん

 

新潟県小千谷市生まれ。グリーンウッドワーカー。スプーンカーバー。岐阜県を拠点に「HÖBAL SPOON」の屋号で、作品の制作・販売、制作風景の動画制作を行う。

HP/hobal-spoon.com