聞く

私が大切にしていること

料理家・フードデザイナー
蓮池陽子さん

202263

蓮池さん

 「凛として、嫋(たお)やか」

 蓮池さんを言葉で表すとこうなるだろうか。

 蓮池さんとの出会いは、2010年位まで遡る。新潟県の無印良品津南キャンプ場で開催された、アウトドア雑誌のイベントだった。ハイエース一台分の食材と対峙し、参加スタッフ約50人分の食事作りに、一人で奮闘しているのを見たのが最初である。どう考えても、ハードな状況の中、黙々とフラットに、業務を遂行している姿が印象的だった。

 時が過ぎ、今度はこちらが主催したキャンプイベント(筆者がキャンプ用品メーカーに従事していた頃)で、お客様におもてなしする料理を依頼したことがあった。食材を自ら地元の物で手配し、設えも、キャンプ場周辺にある草花で調え、文字通り華を添えてくれ、お客様に喜ばれていたのを思い出す。

 限られた時間・予算の中で、「ここにあるもの」を使って創意工夫し、「ここになかったもの」を創り上げていただいたことが、印象に残っている。

 今回は、そんな蓮池さんが開催した山菜ツアーに同行させていただき、その後色々、お話をうかがった。

 

今回は、山菜ツアーにお邪魔させていただきありがとうございました。

蓮池 いえいえ、こちらこそです。

 

さっそくですが、色々とお話をうかがってまいります。蓮池さんと言えば、真っ先に思い浮かぶのが「アウトドアと料理」です。その辺のキャリアのスタートはどこからだったのでしょうか?

蓮池 栃木県にアウトドアを楽しめる施設があり、そこでアウトドア料理の体験プランを担当してほしいと、依頼を受けました。当時は、まだここまでメジャーでは無かった「ダッチオーブン」を使った調理体験や併設していたレストランのメニュー監修も、併せてとのことでした。

 

ビストロ勤務や料理教室の講師をされていた後のお話ですね。

蓮池 いざ行ってみると「アウトドア料理体験」は、まだ立ち上がっていなかったので、自分で立ち上げました。

 

ん?(笑)

蓮池 そうなんです。で、アウトドア料理体験も週末のメニューなので、平日は、子供たちの自然体験というのが学校のプログラムであり、森を案内するガイドをしていました。

 

なるほどです。当時から自然体験と料理の流れができていたんですね。で、その後、あの無印良品津南キャンプ場ですか。

蓮池 アウトドア関連の制作会社のお手伝いをすることもあって、声をかけていただきました。でも、あの1人で50人分の食事を毎食作る体験は、あの一回だけでいい(笑)。本当に一回だけでいいのだけれど、できるんだって思えたことが重要だったと思う。

 

凄かったですよね(笑)。

蓮池 凄かったですよ!

 

近年では、著書もご好評ですね。

蓮池 お陰様で5、6年前位から出版社の方にお声がけいただいて。アウトドアの『キャンプの肉料理』が最初ですね。

 

『アウトドアでホットサンド』も購入しました。懐かしくなり、ホットサンドを作りました。

蓮池 イベントでよく作っていたよね(笑)。山と渓谷社の方の話では、往年のクライマーの方はよく冬は山でホットサンドを食べるんですって。ご飯は凍っちゃうからパンの方が手っ取り早いそうで。

 

なるほどです。それで、行動食としてのホットサンド等、提案しているのですね。しかし、色んなホットサンドが紹介されています。

蓮池 普通はホットサンドに使わないよね! という物もラインナップされています(笑)。山へ持って行き易かったり、コンビニで調達できたり、アウトドアだけではなく日常生活でも作って美味しいホットサンドを提案しています。

蓮池さんの本

蓮池陽子著『ごちそう つくりおきレシピ』

蓮池さんの本

蓮池陽子著『キャンプの肉料理』 『水なし煮野菜レシピ』

蓮池さんの本

蓮池陽子著『アウトドアでホットサンド』

蓮池さんの本

蓮池陽子著『簡単シェラカップレシピ』

山菜についてうかがいます。

蓮池 10年位、山菜愛が続いています。友人が長野に移住した際に山菜が美味しいと言われて、実際に訪れたら本当に美味しかった。フキノトウを始め、もぅ、全部美味しかった! (笑)。

 

世界の山菜も視野に入れてますよね。実際に海外の山を見て色々と考察されているようですが、どういった所を探究されているのですか?

蓮池 木の種類を見ています。落葉広葉樹で、いわゆる「ドングリ」ですね。ドングリは世界各国にあり、しかも山や森にとって栄養価の高い木で、菌床になったり、実は動物の食料になり、落ち葉は良い土壌を作り、豊かな森を作ります。また、ドングリがある森の下流にある海も豊かになるそうです。以前、フランスのバスク地方を訪れた際も、なんか日本の森と同じ雰囲気だと思ったら、そんな落葉広葉樹があって、ここはきっと、春に山菜が出るぞ! みたいな。是非とも検証してみたいです。

 

ほー、としか言えず、すみません(笑)。

蓮池 いや、日本でも森に入ってまだまだ勉強できてないんだけど、植生や植物の摂理が分かると私の場合は料理に繋がってくるんですよね。例えば、花ワサビの花が散ったら、次はどこが美味しくなるだとか、根菜だって葉が落ちて、根に栄養が行くから根の部分が冬に美味しくなる訳で、その植物の栄養状態や栄養管理の成り立ちを正しく理解すると料理への活かし方も違ってくる訳です。

 

ほー(笑)。

蓮池 やっぱり、例えば料理人が畑に来て、このトマト美味しいね! だけでは無くて、このトマトがどう作られて、どのタイミングで何をしているから、どう美味しいとか、正しく理解して調理することが大事なんだと私は思っています。

 

蓮池さんのお料理への情熱が伝わってきます。この流れで昨日の、お料理の話をうかがってもよろしいでしょうか? 実は恥ずかしながら、初めて耳にする、お料理がありました。あの緑色の。

蓮池 サルサヴェルデね!

 

そうそう、それです! そもそも、ウドで作るものなのですか?

蓮池 そもそもは、イタリアンパセリで作るサルサ(ソース)です。ちなみにヴェルデはイタリア語で緑色という意味ね。ポリートミストという、色んな部位の肉をミックスして茹でたものに付けて食べるのが定番の食べ方です。今回、採れたてのウドを使っても、美味しいかと思って。

 

はい。大変美味しかったです。

蓮池 でしょ! (笑)。パンに付けても美味しいし、パスタに使っても美味しいですよ。

サルサヴェルデ

採りたてウドのサルサヴェルデ(右下)「ここにあるもの」を使って「ここになかったもの」を創る。蓮池さんの真骨頂だと思う。

話は変わりますが、今回の山菜ツアーは皆さん素敵な方ばかりで、よい会だったと見受けられましたが、いかがでしたでしょうか?

蓮池 皆さんのお陰です。

 学生の頃から、茶道を始めたんだけど、そのことが今にも繋がっていると思っています。昨日、皆さんと食事を共にした時間も、形は違えど私は茶席に通じるものがあると思っていて、ていうか、そんな気持ちでお料理や場を作っています。「一期一会」ね。流儀や作法は無いようには見えますが、「一座建立」や「主客一体」という利休や茶道の言葉に宿る精神で、一緒にご飯を食べる。だからこそ、いい会話ができる。もてなす側だからこう、招かれた側だからこう、ということでは無くて、一つの共同作業として、みんながいい場所、優しい時間を作り上げる。私の中では凄く繋がっています。幸せなことに、今回、参加していただいた方のように、私の周りは、そういった心持ちな方が多いの(笑)。

 

※「一座建立」「主客一体」亭主と客が場づくりを協力することによって皆が満足する完成度の高い茶席にしようという心や行為を表す言葉。

 

蓮池 経験が繋がっているといえば、以前、森のガイドをしてたことも、今こうして、山菜ツアーをしていることに繋がっているわね(笑)。

 

諸々、感服いたしました。最後がこんな質問になってしまいますが、新潟の気になる食材を教えてください(笑)。 

蓮池 枝豆だよ! 黒崎茶豆! (笑)。美味しいですよね。私の中では枝豆。あと、お米やお酒はもちろんだけど。村上の鮭の塩引き! 村上の文化や歴史も興味を持っています。秋にでも訪れてみたいです。宜しくです!(笑)。

 

――山菜ツアーの記事はこちらをクリック。「暮らす 野に出て山の菜を摘む」

PROFILE

蓮池陽子さん

 

東京生まれ。アウトドアと山菜を愛する料理家。フードコーディネイト、レシピ開発、料理本の執筆等でご活躍。食にまつわるストーリーを紡ぎ、料理として提案することをライフワークにしている。

HP/www.atelierstory.jp