聞く

グリーンウッドワークで伝えたいこと

HÖBAL SPOON・
川端マリコさん②

2023415

 前回に引き続き、新潟県小千谷市出身のグリーンウッドワーカー・川端マリコさんに、ご出店中の岐阜県大垣市のイベント会場にお邪魔し、お話を伺ってきました。

 

―――前回記事を見る。「人と森を紡ぐ時間」 グリーンウッドワーカー・川端マリコさんに聞く①―――

 

今回は、ご出店準備中にお時間をいただきありがとうございます。大垣城と桜が相まって、春を感じる、とても気持ちの良い会場ですね。(4月2日に取材)

川端 そうですね。この「まちなかスクエアガーデン」は、大垣市で令和4年度から定期開催されています。現在、国土交通省がすすめている「ウォーカブルなまちづくり」(※居心地が良く、歩きたくなる「まちなか」を創ること。)を取り入れたマーケットイベントです。

 

余談ですが鉄道旅が好きな私は、大垣と言うと、その昔、東京発大垣行きの夜行鈍行列車の終着駅で、早朝、到着したらすぐに次の列車に乗り換える場所で、降りたことは無かったのですが、お城を中心にした歴史的な情緒がありつつ、商店街も昭和の文化が漂う、雰囲気の良い街ですね。

川端 今まで、駅を降りていないなんて、残念ですね(笑)。 「まちなかスクエアガーデン」は、ここ「大垣公園」だけではなく、駅南商店街アーケードやその他エリアでも開催されています。まさしく「まち歩き」が楽しめるイベントになっています。幅広い世代の方々がお楽しみのようです。

 

昨年も参加されたのですか?

川端 今年が初出店です。今までは社会情勢を考慮してウェブ販売が中心だったのですが、やっと世の中も落ち着いてきましたし、作品を手にとっていただける、このような機会は、とても貴重だと思っています。昨年、本巣市から大垣市に転居したこともあり、気軽に公園での出展ができる素晴らしい環境なので定期的に出展する予定です。

岐阜県大垣市イベント「まちなかスクエアスクエアガーデン」での実演・販売の様子

川端さんは、こういったイベントの他にも、学校での講義や体験授業のご経験も、おありですよね?

川端 はい。昨年の11月に国立岐阜工業高等専門学校にお邪魔して、グリーンウッドワークの授業を行ってきました。環境都市工学科の先生が、私の「文殊の森里山クラブ」での活動をお知りになっていて、ご依頼をいただきました。先生のご専門は地盤工学で、授業の中に「炭素固定」というキーワードが出てくるのです。ざっくりと説明すると、「二酸化炭素を吸収する木を伐り、燃やさずに木材化して沢山使用し、木の利用価値を増やすことによって地球上の二酸化炭素排出量を軽減させること」なのですが、その流れで、一年生を対象に間伐材の利活用について生木を使って何かできないか?ということでした。

 

なるほどです。前回、川端さんがおっしゃていた森林整備・保全等、「木を切って、また増やす」という木材のサステナブルな環境づくりという所に繋がっていますね。

川端 人に教えるのが上手くないのは自覚しています。ですが、私が日々感じている森の現状もお話しできますし、将来仕事として木材の利活用に関わっていく学生さんもいるかもしれないと思いました。また、乾燥した木材以外の話ができる地域の人が私くらいなので、苦手なことにも挑戦してみようということでお引き受けしました。

 

ご思案することも多かったと思いますが、いかがでしたでしょうか?

川端 授業は最大2コマ(3時間)で43名の生徒さんが対象でした。道具の手配や時間配分、3密対策など考えることが沢山ありました。諸々思案した結果、「削り馬」という材料を押さえる道具とドローナイフという両手で持って引いて削るナイフで桧の間伐材を削ってもらい、炭素固定量は、ごく僅かになりますが、削りかすを使ってポプリバッグを作る体験をしてもらいました。ただ削って終わりだと、暮らしに活かされないので、自分でデザインした袋に生木を削ったものを入れてもらい、桧の葉で染めたリボンで口を結んで完成品にしました。

 

生徒の皆さんは、とても貴重な体験だったと思います。

川端 生木は芳香成分のフィトンチッドが多く含まれています。乾燥すると揮発してしまうので、生木を削る体験でリラックスできるのか?みたいな話も体験前にしました。授業終わりで学生さん達に聞いてみたところ、全員効果を感じてくれたというまさかの結果がでました。前日の準備で生木の丸太と実のついた葉や枝をいっぱいに積んだ車内はものすごいフィトンチッド濃度でした。運転しているとだんだん眠くなってくるのです。高濃度森林浴効果でたぶん私が一番リラックスできたと思います(笑)。

昨年11月、国立岐阜工業高等専門学校におけるグリーンウッドワークの講義

「削り馬」を使用した体験授業

体験授業で使用した「桧」の間伐材

生徒の皆さんが体験授業で作成したポプリバッグ

今年の3月には、四国でグリーンウッドワーク講座を開催していましたね。

川端 はい。グリーンウッドワーク指導者養成講座で知り合った徳島県神山町在住の友人かずちゃん(市脇和江さん)が高知県大月町で様々な世代・内容で生木や森に関しての体験プログラムを開催していて、その中にスプーンを削るプログラムがあるということで声をかけていただきました。彼女とは講座の目的やグリーンウッドワークを通じて目指すところが共通していて、良い経験になると思い合流させていただきました。

 

高知県でしたか! 会場や町の雰囲気はいかがでしたか?

川端 大月町は四国のほぼ南西端に位置している港町です。会場は廃校を活用したCOSA大月というオープンしたばかりの交流施設なのですが、外国人アーティストが滞在していて、とても国際的な雰囲気でした。ちいさな港町で英語を話すことになるとは思いませんでしたね。ちゃんと勉強しておけばよかったです(笑)。

 

スプーンの材料は何を使ったのですか?

川端 お隣の地域で自生していたヤマモモの木を使いました。ヤマモモは高知県花でもあります。割って削ってみると緻密で、特にフックナイフで削る工程はとても心地の良い感触でした。

 

参加者の皆さんのご様子はいかがでしたか?

川端 日常で斧やナイフを扱うことのない方が、もちろん多かったのですが、とても上手に使いこなしていました。今回、皆さんが2日かけて大月町の生木の丸太から削り上げたスプーンをたくさん使って、普段使いの道具として育てる楽しみも知っていただけると嬉しく思っています。

 

今回の、大垣市「まちなかスクエアガーデン」もそうですが、今後どんどん、エンドユーザーとの接点が増えていきそうですね?

川端 グリーンウッドワークでつくるスプーンはすべて手作業なので、価格もそれなりです。実演しながら販売することでその説明はいらないですし、作品はもちろんグリーンウッドワークそのものに興味をもっていただければ嬉しいです。自分でやってみたい! という方がいれば、文殊の森里山クラブの活動案内もできます。この2年で受け皿は作ってありますので都市部のまちづくりイベントを通して、気軽に森へ入ってもらうきっかけになればベストですね。

 

色々、つながっていきますね。

川端 市販の材料をただ購入してスプーン制作するのではなく、生木を材料として使うことによって様々な分野の人や、地域とのつながりが生まれるのはグリーンウッドワークならではだと思っています。森羅万象、自然の摂理や環境、地域コミュニティ等において、自分の利潤と効率だけを追求していたらそもそも活動がなりたちません。そのことに気づき、充実した毎日を過ごせているのも、あの時じゃんけんに負けたおかげです(笑)。(このエピソードは「川端マリコさんに聞く①」を参照)

 

グリーンウッドワークに関心を持つことは、現代社会の様々なことを考えさせられますね。

川端 最近はものすごい勢いでAIが発達してきていますが、人間にしか出来ないことに価値を見出していかなければ、多くの人が自分を見失ってしまう未来は、そう遠くないと思っています。私の仕事はパソコンどころか電気すら使わず、動力は私自身ですし、感覚や感性が制作の推進力になっています。考えてみると、そんな有難い環境にいるので、時代の流れを横目に見ながらマイペースに日々過ごしていきたいと思います。

 

今回も貴重なお話をいただき、ありがとうございました。最後に皆さんに、お伝えしたいことをお願いいたします。

川端 地域で育った木から、スプーンなどの「暮らしの道具」を、自らの手を動かしながらつくる。そして、それを使って、地域の食材や味覚を味わうこと。それは、気持ちや暮らしが豊かになるだけではなく、私はそのことが、なによりの「木育」であり「食育」だと考えています。なので、グリーンウッドワークの楽しさをもっと多くの人に知っていただけるよう、これからも精進していきたいと思っています。

高知県にて。地元の生木から手仕事でスプーンをつくり、それを使って地元の食材や味覚を愉しむ。このことが木育と食育になると川端さんは言う。

PROFILE

川端マリコさん

 

新潟県小千谷市生まれ。グリーンウッドワーカー。スプーンカーバー。岐阜県を拠点に「HÖBAL SPOON」の屋号で、作品の制作・販売、制作風景の動画制作を行う。

HP/hobal-spoon.com