新潟県村上市。
新潟県の北部に位置する城下町で、歴史情緒あふれる町屋づくりの街並みや、鮭を中心にした独自の食文化、また海岸沿いに温泉街や景勝地もあり、近年の新潟においても人気の観光スポットになっている。
そんな村上市で、名産「塩引き鮭」を製造直販している「総合食品さいとう」の代表取締役専務・齋藤正志さんに、生まれ育った、「ふるさと村上」のお祭りについて、お話をうかがった。
村上大祭の日はお世話になりました。(例年、7月6日・7日に開催)
齋藤 こちらこそありがとうございました。
今年の村上大祭はいかがでしたでしょうか?
齋藤 ようやくコロナも落ち着いて、4年ぶりの通常開催だったので、嬉しかったですね。村上市民全員が待ち望んでいたと思います。
歴史のあるお祭りですもんね。
齋藤 江戸時代から始まり、今年で390年の歴史があります。当時の村上の殿様が、臥牛山の中腹にあった「西奈彌羽黒神社(せなみはぐろじんじゃ)」を城から見下ろすのは畏れ多いとのことで、今の場所に移築し、そのお祝いとして、大町の人が大八車に太鼓を積んで町中を練り回したことが村上大祭の始まりのようです。
19台の「おしゃぎり」(山車)が町中を練り歩く様は、とても壮観でした。
齋藤 「おしゃぎり」は村上市街地の各町内に一台ずつあります。村上は小さな城下町で、道が細く入り込んでいたりするので、取り回しがいいように二輪でできています。そこが他の地域のいわゆる「山車」と違う所です。
一台の「おしゃぎり」に町内の老若男女、役割があって、地域のよいコミュニティの在り方をみているようでした(笑)。
齋藤 そうですね。大体各町内、同じなんだけど、子供は「おしゃぎり」に乗って、鳴り物を叩いたり、後方で笛を吹いたり、大人は「おしゃぎり」を曳く役目で、それは自分が子供の頃から変わっていないですね(笑)。
※村上市民が脈々と受け継いでいる村上大祭での風習は2018年(平成30年)に「村上祭りの屋台行事」として、国の重要無形民俗文化財に指定されている。
皆さん、どんな感じで「村上大祭」まで準備を行うのでしょうか?
齋藤 そこは各町内によって違うと思いますが、自分の所属する「小国町」では、大体6月20日位から子供達の「お囃子」の練習が始まります。その辺りから、なんとなく大人もお酒を飲む機会が増えたりし始めます(笑)。
なるほど。祭りに合せて地域のコミュニケーションも活発化する訳ですね(笑)。
齋藤 今年はそうでもなかったんだけど、コロナ以前は、その子供達の練習にかこつけて集まった大人達で、連日お酒を飲んでいました。そうやって本祭まで、気分が高まっていく感じでした。
「おしゃぎり」はいつ組み立てるのでしょうか?
齋藤 小国町の場合は7月6日の朝です。土台と二階の部分は組み立てられた状態で収納されているから、8時位から作業を始めて、10時30分には終わる感じですね。で、午後から「宵祭り」として試運転で町を練り歩く感じです。
7月7日は午前4時30分頃に村上入りしたのですが、もう「おしゃぎり」は動いていました。
齋藤 まず、7月7日の午前0時になると西奈彌羽黒神社から「先太鼓」が出発し、村上市街地を回ります。これが7日の本祭がスタートする合図になります。
その「先太鼓」は独特のリズムで太鼓を叩きます。そのリズムには意味があって、言葉に訳すと『やれ「かか(母)」起きれ、「おこわまま(おこわ)」ふかせ!」の意があります。さらに分かりやすく言うと、「(祭りが始まるので)お母さんは起きて、おこわ(赤飯)を作れ!」ということになります。
要するに祭りが始まるので「皆、起きろ!」と(笑)。
齋藤 その「先太鼓」の巡回が終わると一番目の久保多町の「おしゃぎり」の練り歩きが始まります。自分達の「小国町」は十番目で、4時30分位のスタートだったから、久保多町の「おしゃぎり」は夜中から動き始めている感じですね。
その一番目の久保多町の「おしゃぎり」が「小町坂」を駆け上がるのが、最初の見どころですね。観客も沢山、集まります。
そして、全部で19台の「おしゃぎり」が町中を練り歩き、西奈彌羽黒神社を目指します。
しかし村上市民の祭りへの熱量が凄い! 齋藤さんも子供の頃から参加されていたということですよね?
齋藤 そうだね。俺らの頃は、今と比べて子供も多かったら、幼稚園の時に初めて「おしゃぎり」に乗せてもらって、小学校3年になって初めて太鼓を叩いた感じでした。今は子供も少ないから、小学生になったらすぐ、太鼓を叩いてもらっています。
勇荘かつ華麗な「おしゃぎり」もさることながら、各町で設えられた祭り装束がとても印象的でした。
齋藤 村上の場合は、子供の時、そして大人になってからと、各家庭で業者に設えてもらう感じです。
そういったことも含めて、「村上大祭」を通じて、自然に伝統的なものが受け継がれる環境ができあがっていくのだろうと、強く感じました。
齋藤 それはそうだよね。子供の頃はただ楽しいだけで参加していたけど(笑)。
自然と村上の歴史だとか伝統だとか理解できるようになっていきました。大人たちの気概というか、伝統を受け継いで「村上大祭」をしっかりやりきる感を発信している大人が多かったし(笑)。
俺らもそうしようと思っています。
話は変わりますが、「村上大祭」の時に食べる代表的な料理はなんでしょうか?
齋藤 まず、「鮭の酒びたし」ですね。去年の冬に塩引きを作って、干して置くと、丁度、この村上大祭の時期に「酒びたし」が出来上がる感じです。
なるほど! そういうタイミングなのですね。
齋藤 そうそう。お祭りに食べるために、塩引きを干しっぱなしにしておいて、この時期に切って食べる。後は、身欠きニシンの甘露煮とか、キュウリとナスの漬物とかが昔からあるものですね。
齋藤さんが生まれ育った「小国町」の風景は昔と変わっていませんか?
齋藤 これは村上だけではないけれど、やっぱり商店街も店が少なくなっていて寂しい部分はありますね。
ただ、老舗のお店も残っていて、味噌・醤油を製造販売している「てんや味噌醤油店」さんも、1701年の創業ですし、お茶の北限といわれる「村上茶」を製造販売している「九重園」さんも「小国町」ですね。
「九重園」さんでは併設されたカフェも人気のようです。
齋藤 築250年の町屋で抹茶やお茶を楽しむことができます。
齋藤 あと村上では、お盆に開催される「七夕祭り」も盛り上がります。
齋藤さんが子供の頃から開催されていたのですか?
齋藤 そうですね。8月16日、17日に開催されます。村上大祭は全世代が参加する感じですが、こちらはどちらかというと子供や若者が主体のお祭りになります。各町内で山車も出て、「獅子舞」がメインのお祭りです。
恥ずかしながら、「七夕祭り」を知りませんでした。
齋藤 村上大祭が終わって7月20日過ぎ位から、これも練習が始まる感じでした。当日は「獅子舞」で大人からご祝儀が出たり、楽しかったです(笑)。
それはいいですね! (笑)。
齋藤 でも「獅子舞」は大変でした(笑)。 各町内を歩く時も2分か3分置きに止まって、ご祝儀が上がったから踊っての繰り返しで、なかなか、先に進まない時もありました。よりによって「小国町の獅子舞」は19町内で一番演じる時間が長いのです(笑)。
お疲れさまでした(笑)。
齋藤 でも「小国町の獅子舞」は過去に全国郷土芸能祭みたいな大会で二度、全国3位になったことがあるのです。
それは凄いですね!
齋藤 8月17日は最後夜、「小国町」の通りに各町内が集まって「獅子舞」を踊るのですが、今でも「小国町の獅子舞」は人気がありますね。是非、観に来て下さい!
今回は齋藤さんには村上市の「村上大祭」と「七夕祭り」についてお話を伺いました。また改めて、齋藤さんには、塩引き鮭の仕込みが始まる頃、第二弾のインタビューを実施させていただきたいと考えています。もちろんテーマは「村上と鮭」についてです。何卒宜しくお願い申し上げます。
PROFILE
齋藤正志さん
新潟県村上市生まれ。村上市の特産品「鮭の塩引き」「鮭の焼漬け」等を製造販売する「総合食品さいとう」代表取締役専務。首都圏での催事販売でもご活躍。