暦は大暑を迎えた。
現時点で、新潟は梅雨明けしておらず、「じめっとした」暑さが続いている。自分で綴っておきながら、「大暑」という文字を見るのも嫌になってくる。
時折、「今日、日本で一番気温が高かった所」がメディアで報道されるが、以前は決まって、埼玉県熊谷市を始め、静岡県や岐阜県の地名が挙げられることが多かったが、近年では新潟県三条市が挙げられることも少なくない。筆者が子供の頃には記憶がない現象だ。
そんなことを想いながら、子供の頃を振り返ると、夏ならではの匂いや音、光景が記憶に甦る。
蚊取り線香や手持ち花火の火薬の匂い。蝉の鳴き声や近所の人の声など、クーラーも無く、家の窓を開けっぱなしにしてあるので、良く聞こえてきたものだった。
縁側などでは朝顔やヘチマのつるが伸び、「すだれ」がかけられ、軒先には風鈴が吊るされ、風が吹くたび心地よい音を鳴らせていた。夜になり、寝室には「蚊帳」が吊るされ、そんな日は何だかワクワクしながら寝床に着いた。
ついでに新潟の夏の食卓には、昔から茄子がやたらと出てくる。茄子漬に始まり、焼茄子、ふかし茄子、みそ炒め、くじら汁も茄子は必須な食材だ。
父親が帰宅すると、ビールの大瓶の栓が開けられ、枝豆も加わり、野球のナイター中継を観ながら、食卓を囲むという生活様式はどこにでもあった夏の暮らしの光景だったと思う。
何だか、少し話が逸れた感があるが、夏の暑さを「視覚」や「聴覚」で、少しでも涼しく感じたいと思い訪れたのが、五泉市の「五泉八幡宮」だ。
五泉市について少し触れると、新潟県の下越地方にある市で人口は約4・8万人。ニット産業と、自然豊かな環境を活かした農業が盛んで、チューリップの球根・切り花、ぼたん、レンコン、イチゴ、メロン、キウイフルーツ、銀杏、栗、葡萄、竹の子、里芋の産地だ。特に里芋は、「帛乙女(きぬおとめ)」というブランド里芋が全国的にも人気があり有名だ。
そんな五泉市の市街地にある「五泉八幡宮」は夏の風鈴で有名な所だ。七夕にあわせて例年7月になると、境内に国内各地や海外で作られた風鈴約5000個が飾られる。(本年は7月31日まで実施)
その光景は壮観であると共に、実に涼し気で、風が吹くと一斉に風鈴の心地よい音が境内に鳴り響き、視覚的にも聴覚的にも涼味を味わうことができる。
風鈴以外でも、各所に季節の花々が涼し気にアレンジメントされていて、更に夏の風情を引き立てている。
まさしく「一服の清涼剤」とはこのことで、夏の暑さが少し和らいだ感覚になれる時間であった。
考えてみると古来より日本人は、移ろう季節の中で繊細な感性を活かし、様々な創意工夫を持って、暮らしの中に小さな喜びや幸せを感じながら生きてきたように思う。
もちろん、クーラーの設定温度を下げることも暑さへの現実的な問題解決の方法であるが、季節の風情を感じとれる工夫や心のゆとりも、暮らしの中では必要と改めて感じた一日であった。