食する新潟ガストロノミー

「光兎の宿あらかわ荘」で食する

料理長謹製
シェフズテーブルを体験

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新潟県岩船郡関川村・高瀬温泉「光兎の宿あらかわ荘」

新潟県岩船郡関川村

高瀬温泉「光兎の宿あらかわ荘」という所

 

―――まず関川村の風土や歴史を知りたい方はこちらから―――

 
 かつて米沢街道の宿場町として栄えた「下関宿」(現在の役場・渡邉邸・道の駅関川周辺)。そのほど近くで、行き交う旅人や商人、船頭や荷揚人足の疲れを癒やす湯治場として栄えたのが高瀬温泉だ。この歴史ある地に佇む「光兎の宿 あらかわ荘」は、創業二百余年の歴史を誇る老舗宿である。

 館内へ一歩足を踏み入れると、「光兎(こうさぎ)の宿」の名の通り、関川村の守り神である沢山の愛らしい「うさぎ」がお出迎え。
 全館畳敷きの気品ある空間の中、樹齢二千年の歴史を刻む銘木「古代檜(こだいひのき)」の湯殿と、料理長が厳選した地産地消の贅を尽くした美食を心ゆくまで堪能できる。

「光兎の宿あらかわ荘」料理長・佐藤匠さん

「光兎の宿あらかわ荘」

料理長・佐藤匠さんを「紐解く」

 

①東京・赤坂での修行の日々

 そんな歴史ある「光兎の宿あらかわ荘」を支えているのが平成八年(1996年)生まれの若き料理長・佐藤匠さんだ。佐藤さんは新潟市の調理師専門学校を卒業後、東京・赤坂の老舗「菊乃井」の門を叩く。

 食の世界を知る者なら誰しも察することであるが、無論それは生易しいものでは無い。料理にも「道(どう)」というものがあるならば、一流料亭での日々はまさしくその修行に他ならない。

 一分の妥協も許されない緊張感、己の技量と感性を極限まで追い求める日々。

 「辞めよう」と思ったことは、一度や二度ではなかったという。特に料理人として4年目を迎えた頃、任される仕事が増え、責任の重さに押し潰されそうになっていた。精神は疲弊し、「もうどうでもいい」と思うほどに心が擦り切れてしまった佐藤さんは、ついに一度、職場を飛び出す。

 
 泣きながら「辞めたい」と訴えた
あの日の記憶。
 
 最終的には職場へ戻って謝罪し、役職やポジションは下ろされたものの、料理人としての道だけは繋ぎ止めることになった。
 思えば、「もう限界だ」と立ち止まるたびにいつも不思議と誰かに助けられてきたと佐藤さんは振り返る。
 「お前ならできる」と励ましてくれた先輩。自分の作った一皿に、心からの笑顔を返してくれたお客様。そして、遠く離れた故郷から、変わらぬ愛情で支え続けてくれた両親。
 もう一度言うが、厳しい修行の日々であったことは間違いない。しかしながら、そうした数々の出会いと恩情の中での八年間であったとも言えるのではないだろうか。

光兎の宿あらかわ荘厨房・幾度となく繰り返されている「出汁」を引く作業

昆布は「真昆布」を使用

故郷食材のポテンシャルに合わせた出汁を再構築

②関川村を拠点に

食支度に馳走する日々

 東京での八年間の修行後、実家である「光兎の宿あらかわ荘」に帰って来た佐藤さんが先ず行ったことは、その知見と技の披露ではなく、「再構築」だった。

 家業と兼務しながら新潟県有数の老舗料亭、村上市「能登新」に一年間従事し、さらに料理への知見を深める。と同時に、郷土関川村の風土、歴史を見直す。すると佐藤さんの中に一つの確信が生まれる。
 
 大切なものは全て、関川村にあった。
 
 東京にいたからこそ、関川村の水の清らかさ、米や野菜のポテンシャルの高さが客観的によく理解できたという。少し車で移動すれば村外になるが岩船港で魚介類を入手することもできる。まさに自分が実現したい料理のベースは、他ならない故郷、関川村の風土にあったのだ。
 そんな佐藤さんは、日本料理の基礎である「出汁」を関川村の風土に合わせて変化させている。東京では利尻昆布のみを使用していたが、現在は「真昆布」を使用している。
 その理由が、古のこの地には、北前船により「真昆布」が運ばれていたことにある。荒川河口の寄港地、村上市「塩谷」で川船(廻船)へと積み替えられ、荒川を遡り関川村の下関宿へ。そこからさらに米沢へと、かつて海と内陸を繋いだ壮大な物流の歴史の記憶が、この地には「真昆布」と共に息づいているのだ。
 また、関川村の大地が育んだ野菜の力強い本来の甘みや食味、そして水と対峙した時に出汁の素材や引き方そのものも見直す必要があったからだ。
 そんな関川村の風土と歴史が生んだ「出汁」が「光兎の宿あらかわ荘」のスタンダードになっている。
 春に自ら山で採取する山菜。手が届くような近所にいる生産者が育む野菜などの食材。岩船港では、お世話になった「能登新」さんから紹介して貰った漁師が、船上で神経締めしてくれた魚。
 また、ジビエ料理振興のため自ら狩猟免許を取得するなど、関川村から料理で未来を創造し、お客様をもてなす日常は、まさに「食支度に馳走する日々」なのだ。

関川村の生産者の方々・岩船港界隈の風景

とある五月の「シェフズテーブル」の献立・先付(右上)八寸(左右下)

向付 一、牡丹海老

牡丹海老に添えられた特製海老醤油

向付 二、平目

椀物 ひらす(こしあぶら入り)とぜんまい

③「シェフズテーブル」という

至極で至福な時間を

「光兎の宿あらかわ荘」で過ごす

 一日一組。四名まで。

 厳選された地元の山、大地の食材と岩船港の漁師から直接手配した海の恵み。  

 佐藤料理長の知見、技が織りなす渾身の献立。一皿に込められた思いや食材の話に耳を傾け、目の前で行われる流麗な包丁捌きに目を奪われつつ、一皿一皿に舌鼓を打つ、至極で至福な時間。

 訪れたのは、新緑に風薫る五月のとある日。席に着き、さりげなく置かれた献立表に目を通す。

 

  • 先付 蓬
  • 八寸 早苗豆腐 粽寿司 平茸 かすべ 蕗の薹 蕨餅 こごみ しどき菜 つぶ貝
  • 向付 一、牡丹海老 二、平目
  • 椀物 こしあぶら
  • 口直し 甲烏賊 山菜
  • 焼物 鴨
  • 揚物 さざれ石
  • 強肴 鯛
  • 御飯 蕨 筍
  • 水物 氷菓 越後姫

 

 どうやらその献立の象徴的な食材のみを表記しているらしい。

 

 それがいい。

 

 それは、とある小説の行間の如く、読み手に創造力を働かせる。そして、実際に運ばれた一皿について、佐藤料理長から説明を受ける。そして、料理を口に運ぶ。

 人が感動する時というのは予めこうなるだろうと予測していたものが、良い方向で予想外になった時だ。

 あっという間の二時間弱だった。しみじみとしたこの感動の積み重ねは、ともすると忘れかけていた食する事で心も満たされていたことに気付く。

 

「いつも献立が決められなくて…。」と、最後に佐藤料理長が、少しはにかんだ表情で笑う。と同時に「日々。勉強です!」と、引き締まった表情で力強く話す。

 この関川村をこよなく愛する料理人はさらなる研鑽を重ね、食を通じて人々に感動を与え、村の未来を創造していくのだろうと、確信を覚えた。そんな時間だった。

口直し 甲烏賊 山菜(独活、うるい、木の芽)・肝と墨のソースと、木の芽ドレッシングが添えられる

献立によっては、目の前で調理、包丁さばきを観ることができる

焼物 鴨・網で捕獲され丁寧に処理された鴨は、佐藤料理長の技でさらに昇華させられる

揚物 さざれ石・荒川に点在する「さざれ石」に見立てた佐藤匠流コロッケ

強肴 鯛・まず一番出汁で最初の一切れのみを食する

次に筍と鯛を出汁にくぐらせいただく春の逸品

ご飯 蕨 筍(関川村の郷土料理)・水物 氷菓 越後姫(焼いてスープ仕立てにした越後姫の甘みが抜群)

INFORMATION

光兎の宿あらかわ荘

 

住所/〒959-3261 新潟県岩船郡関川湯沢308

電話番号/0254-64-2118si

HP/arakawaso.com

※シェフズテーブルの詳細はホームページにてご確認下さい。