紐解く

人知れず咲く花

加茂市七谷地区にて。

2024415

 新潟は桜の花が満開で、見頃を迎えている。新潟市では4月6日に、今年の開花宣言が出された。

 今更言うことでもないが、桜の花がいかに人々の心中に刷り込まれているかが分かるのがこの時期だ。メディアは各地の開花状況を取り上げ、桜の木の下で多くの人々が集う様子を報道する。雪国に住む者はそれを見て、桜の便りを一層待ち望む。毎年、繰り返される心情だ。

 そんな風に、人々に待ち焦がれられ、愛でられる桜もあれば、その一方で、毎年、人知れず花を咲かせ、散って行く桜もある。

 

 加茂市七谷。

 

 かつてこの地には、蒲原鉄道の「七谷駅」が存在していた。山里の小さな駅であったが、電車が交換できる島式のホームと、貨物用のホームを有していた。

 少し、蒲原鉄道について掘り下げると、1930年(昭和5年)に全通した信越本線の加茂駅と磐越西線の五泉駅を結ぶ21・9kmの路線で、途中、中蒲原郡村松町(当時)を経由し、加茂川沿いや、長閑な山里、田園地帯を走る鉄道であった。ある世代の加茂市民にとっては、とても愛着のある鉄道で、市営プールや陸上競技場に行く時の「駒岡駅」、冬のスキーで乗降する「冬鳥越駅」など、学校行事等で乗車し、思い出に残っている方も多いと思われる。加茂市で生まれ育った筆者は、まさしくその世代だ。

加茂市「冬鳥越スキーガーデン」に保存されている蒲原鉄道の車両

 また、「七谷」は、粟ヶ岳の麓の山間地域で、1889年(明治22年)から加茂市に編入される1954年(昭和29年)まで、中蒲原郡七谷村として存在していた。文字通り「七つの谷」有していることが地名の由来らしく、現在では、その自然環境を活かした農業や温泉観光に注力している地域になっている。

 

 話を「蒲原鉄道旧七谷駅」に戻す。

 

 1985年(昭和60年)蒲原鉄道は加茂―村松間が廃線。1999年(平成11年)には残されていた村松ー五泉間も廃線となり、今現在、七谷駅舎は地域の集会場に。線路は剥ぎ取られ野ざらしに、駅施設は解体され、辛うじてホームの跡だけが残されている状態である。

 そんなホーム跡に一本の桜が、毎年綺麗な花を咲かせる。かつて、この季節に毎朝、通勤通学客を和ませていたと思われるが、今では、人知れず花を咲かせ、散って行く。

 そして、そんな感傷と同時に思い出す蒲原鉄道の「匂いと音」がある。車内のシートや、木製の内装に染み付いた、何とも言えない独特の匂いや、長時間停車時に突然鳴りだすモーター音のようなものや、走行時のガタゴト音。

 どれも、昭和のノスタルジックな思い出なのだが、この間のことのように鮮明に記憶が甦るものだ。筆者は、そんな風に一人、その桜をしみじみと眺めることが好きな時間の一つになっている。

 恐らく来年もこの地を訪れ、同じようなことを想うのだろう、たぶん。